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「当たり前」という物差しに目盛りを増やす 2021.12.31

先日、アイドルグループ日向坂46のドキュメンタリー映画『3年目のデビュー』を見た。皆さんはご存じか分からないが、日向坂46は、元々、欅坂のアンダーグループとして発足した”けやき坂46(ひらがなけやき)”というグループだった。アンダーという従属的な立場から、努力の末、”ハッピーオーラ” "おひさま”などに象徴される今の日向坂があるのだが、その努力の奇跡と苦悩の日々がこの作品には記録されている。

そんな日向坂46だが、けやき坂時代に、二期生を迎えており、日向坂としてのデビューシングル『キュン』では、そんな二期生の小坂菜緒がセンターを務めた。二期生ながらもセンターを務める事となった小坂が、映画の中で語ったこの時の心境がとても印象的だった。

 

「正直なんで私なんだと思ったところがあって。けやき坂から日向坂に変わってデビューシングルでセンターを務めた時が一番つらかった。

その時期の取材とかで、「(自分がいない)けやき坂の3年間」をよく聞かれた。でも、自分にはそのけやき坂の3年間が分からないし。自分がそれを話すのが申し訳なく思っていたところもあって。」

二期生は、欅坂のアンダー的立場で苦汁を噛んできた時代を知らない。その時の苦労と努力を知らない。そんな自分が、センターとして、グループの代表に立っていいのかという思いが彼女にはあったのだと思う。経験が無い事で、感じたセンターとしての孤独感も、彼女だけが知る経験。それ故、誰にも相談できなかったという。

私たちの日常には、大小あれど様々な経験の違いに出会う。「私はしてる。けどあなたはしていない。」それを意識できるものもあれば、出来ないものもある。日々、生きていれば、必ずその差異は生まれる。そしてそれによって、辛い思いをする事も少なくない。

朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

三世代によって紡がれるラジオ英会話が繋ぐ親子の物語。”英語”を通じて出会った今でいう大企業の御曹司に恋をした第一部の主人公、安子。

彼女は、戦争の中で、やっとの思いで結婚した彼を失い、彼が残した娘、るいを必死で守ろうと決意する。だが、奔走する安子、彼の実家の義父、義弟などの思い、英語を通じて知り合った外国人への恋心が交錯し、るいに大きな誤解をされてしまう。そして第一部の最後には、安子はるいに「I hate you」と軽蔑されてしまう。彼の家の力を借りず、自らの力でるいを守る。「るいは私の命」とるいの事だけを考えてきた彼女にとってその言葉は、致命傷になった。

この回の終了後、Twitterでは様々な意見が飛び交った。「一度、子供に”嫌い!!”と言われたぐらいで...」という意見もあれば、「ずっとるいのために生きてきた彼女にとって、稔の形見である”英語”で軽蔑されたのは辛い」という意見もあった。

作中でも、義父や義弟は安子が思う「るいの幸せ」に気づかずにいた。視聴者の経験によっても、その感性や受け取り方は千差万別。ドラマをSNSを覗きながら視聴しているとそう思う。経験の有無は、その人間性までをも表象する。だが、私たちは経験している事に無意識で、経験していない人を意識することは怠る。なぜなら、経験を基に、考えるからだ。

www.nhk.or.jp

経験している事に無意識といえば、我々が生まれていつからか「社会」の一員として生き、何かしらの集団に属している事だって無意識の事だろう。朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』にハマった事もあって、主演、清原果耶の作品をいくつか視聴した。その中の一つ『デイアンドナイト

俳優山田孝之が監督した作品としても知られるこの作品で、清原は児童養護施設で暮らす「家族」を知らない高校生、奈々を演じている。物語序盤から奈々は、施設で他の子どもたちと楽しそうに暮らしており、何不自由ないように見える。だが、物語後半で、卒業を間近に控え進路を決める事になった奈々は、絵を描くことが好きで周りにも「上手い」と言われるほどだった事もあり、勇気を出して美術の専門学校を志望する。だが、担任の先生には反対されたあげく「卒業したら施設も出なくちゃいけないんでしょ?家族もいないし、身寄りもいないんじゃねぇ...」と言われるのであった。

それまで、施設の皆を「家族」と思っていた奈々にとって、先生の言葉は重く突き刺さり、サプライズで誕生日を祝ってくれた皆の前から逃げ出してしまう。そして、主人公に「家族だと思っていたものはそうじゃなかったの?」「家族のフリをしてるだけ?」と言うのだった。

社会に属して、家族がいてここまで生きてきた。

当たり前に思える事も当たり前じゃない人もいる。だが、日常を生きる私たちはそれに無自覚だ。当たり前にある人からすれば、それは「経験する」事ではない。だが、それが当たり前じゃない人からすれば、経験なのだ。そして「経験不足」として社会から評価される。当たり前だと無自覚な大勢の社会の物差しによって、押し込められる。

逆に言うと、そんな彼女たちがそれを知った時に、烙印を押された自分の名誉回復のつては、社会の物差しを利用した「家族がいない事を”経験した”」と、その境遇をある意味で肯定し、それでマウントをとるしかないのかもしれないと思ったりもする。

「親に代わって弟を育てながら出世した人」「シングルマザーである母を経済的に支えながら勉学に励んだ人」

ゲストの芸能人を掘り下げるトークバラエティでは、そんな境遇が美談として度々紹介される。確かに結果としては素晴らしい事で、評価される事かもしれない。だが、親に代わって弟の世話をする必要も、母を支えるために働く必要もない方がいいに決まっている。

いつもは当たり前に無自覚で無意識にそうでないものを排斥するのに、そんな時だけ当たり前を自覚し、彼女たちを称賛する。そんな風であっていいのかと思う。

私含め大勢が「当たり前」や「普通」に支配されている。

そしてそれは乱暴に言えば数の論理、多いものが勝つという軸なのだろうと思う。家族がいて何不自由なく自分の生活を営めること、それが当たり前とされる世の中で、「家のために働きづめ」「親の面倒を見る事」などは、「経験」として評価されない。本来、それを経験として認知したくないのにそうせざるをないから叫ぶのに、それをやればやるほど「不幸自慢だ」「それぐらい当たり前だ」と批判される。

日本以外のコミュニティを知らないから、何とも言えないが、この社会では物差しが基本一本しかない。そう、「当たり前」「普通」という物差し。そしてそれに合う事を求められる。合わなければ合うように形を変えなければならない。俗に言う”同調圧力” その癖、都合が悪くなったら物差しを歪めることも厭わない。だからこんな歪な事になる。

その中で物差しによって烙印を押された者がどう自分の存在を維持するのか。それこそ「違う」という事を逆手にとり優位に立とうとする事しかない。

「私は人とは違うのだ」「だから特別なのだ」

大雑把に言えば、そうやって優越感をつくりだすしかない。だが、前述したようにそうやって苦肉の策の、身を削った行為も、「大げさだ」「こいつ何なんだ」と白い目で見られてしまう。

実際、世の中の言う「経験」をした、していないという事実は、選べない状況にあっても、自分で選んでも周りからすれば同じなのだ。だから、選べない状況をうまく使おうとしても、余計に外との分断を生むだけだ。そして、ますます同じく「私は特別だ(でも周りとは違うのが辛い)」という人としか話さないようになる。メリットのように見えるが、これも分断に変わりはない。それに経験していない事を糧にすればするほど、周りとのギャップ(「青春」があったかどうかなど)が生じて辛くなる。

私自身もずっとこういった経験をしてきた。周りと違うと認識したその時から、知らぬ間に「普通」に支配され、いかにそこにしがみつくかだけを考えた。それ故に「普通ではない」事を過度に怖れ、劣等感を感じていた。

そういう意味では、自らの境遇というより、その物差しに苦しめられた面の方が多いのかもしれない。

 

そうやって「当たり前」という物差しに、惑わされている内に、自分を守るための「特別」意識も、傲慢な思想へと変り果ててしまう。

「自分は、これだけ苦しんだからこれくれいいいだろう」

そうやってする内に、また他者に誤解され批判され、負のループに入ってしまう。

何か人と違う経験をした、反対に皆が経験している事を経験していないという事は、大小あれど、意外にも皆ある。家族の問題やデリケートな問題を同一直線上に置くのは危険だが、あえてそういう問題を持つ私は言いたい。

「どうせ物差しが一本しかないのなら、目盛りを増やせばいい。」

この世界は何かと一つの物差しで物事を測りたがる。そしてそれはなかなか頑固だ。そこで違う物差しで測れば「あいつの物差しは正確じゃない」とか言われて、のけ者にされるだけだ。だったら、その物差しを利用するしかない。そこで、出来るのは、物差しの目盛りを増やす事だ。違う物差しを用意して例えば、「私は不登校だったから、気持ち分かるよ!!」も間違いじゃないが、それでは前述したように分断を生んで、より社会と関わりづらくなってしまうだけだ。それよりは、皆が使う物差しの中で、少しでもその差を理解してもらえるように動く方がよっぽど苦しみに寄り添えるし、新たな苦しみを生まなくて済む。

大小いや、大きさでは測れないその経験の有無に対して、どんなものであってもその「違い」を皆が使う物差しで認識できる事が一番だろう。


先日『SWITCHインタビュー達人達』という番組で、YOASOBIのayaseと、脚本家である北川悦吏子の対談を見た。そこでこんな話があった。『ロングバケーション』を始めとする人気作を量産してきた北川は、脚本を執筆する際、電車で人間観察をしてアイデアを膨らませるという事はしないらしい。むしろそれが出来ないという。番組では、北川が脚本を担当した朝の連続テレビ小説半分、青い。』の台詞の一つが挙げられた。

「リアルを拾うんだ。想像は負ける。空想の世界で生きてる奴は弱いんだ。心が動かされることから逃げるな」

これは漫画家を目指す片耳しか聴こえない主人公、楡野鈴愛(永野芽郁)に、その師匠的存在である人気漫画家、秋風羽織(豊川悦司)が説いた言葉。

人間観察をして想像で書くことが出来ず、”自分”と誰かの関係でしか物語を紡げないという北川の意見に、ayaseも「こういう人はこうなんじゃないかという想像は弱い」と共感しており、北川の「とりあえず一回血を流しとけ」という言葉で締めくくられた。

www.nhk.jp

私はこれまで、自分を守る意味で想像の世界に助けられてきた。だからこそ、それがあたかも万能かのように語ってしまっていた。だが、想像は、現実の世界から生まれていく。切っても切り離せない関係だ。想像の世界にいつまでも閉じこもっていてはいずれその世界は腐る、そしてその想像力はいずれは独りよがりの決めつけになる。

経験は何も、自分が経験する事だけではない。人と話をする事でそれも疑似経験として蓄積される。だから、自分も例外なく色々な経験をしなければならない。

 

他者とは違う境遇にあって、なんとか歪んだ形で無理やり作り存在価値を見出して生きてきた私の生き方が、雪崩のように崩れた今年。

様々な作品に触れる中で、「止まっている」「動けなくなっている」状態なのに、社会と繋がっている感じがずっとあった。まるで命綱のように。それは違う面から見れば、「現実と向き合う事から逃げるな」そうしっかりと腕を掴まれているようでもあった。

物差しに翻弄され、きっとこれからも翻弄され続けるだろう。だが、そばにいてくれる人がいるだけで十分だ。当たり前な事がそうではない人がいて、それがあることで特別な経験をした、皆がしている経験をしていない人がいる事、そしてその経験の有無で周りとの関わり方に悩み、断絶を感じてしまっている人がいる事を分かってくれる人がいれば。それは私も肝に銘じなければならない事だ。

物差しすら利用できる、その物差しに多くの目盛りを書き込み、自分の周りだけでも寛容になればいいと願う。そして、来年はもっと皆が笑っている世界になればいいな。

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(あとがき)

2021年最後のブログとなりました。皆さん今年は沢山読んで頂きありがとうございました!!「ブログやってて良かった~」と思えた一年でしたし、定期更新&多くのコメントでブログ自体軌道にのった?一年だったので、本当に思い入れのある一年になりました。過去の記事は更新してしまえば、大抵何を書いたか忘れてしまうのですが、『おかえりモネ』『着飾る恋には理由があって』のレビュー記事、そして私自身の『ヤングケアラーの「私」の話』は自分自身の心に残るとてもいい記事になったなと感じています。他にも本当に沢山の文章を書きました。リトグリのアルバムレビューや、YOASOBI「ラブレター」のレビュー記事、カバー曲について、自分にとっての音楽やドラマはどんなものか、自分の好きな人はどんな人かも今年の文章なようで...ブログで見ると濃密な一年だったなと思います(笑)その総数34記事!!一記事最低3000字は書いているので、最低10万2000字は紡いだようです...まぁ計2万字を費やした記事が二本ほど、1万字も割とザラにあった気がするので、下手したら15万字以上あるかもしれません。そう考えると私ですら引きます......

まぁそれだけ書いたことで、書くことの楽しさ、書くことの力を存分に噛み締められた2021年になりました。まさかこんな一年になるとは思っていませんでしたが、「ブログを書く」という判断をしたのは間違いじゃなかったと何度も思えました。ブログを通じて繋がれた方々には本当に感謝でいっぱいで、頂いたコメントも宝物です!

来年は今年ほどの更新にはならないと思います。ですが、出来るだけ投稿したいと思っていますので、変わらず読んで頂けると嬉しいです。来年はこの記事にもあったように、色々あったしあるけど、そばにいてくれる方々を糧に「経験」することに逃げずに頑張りたいと思います!!

では、良いお年をお過ごしください!!したっけ~!!

 

【過去記事】

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